建て替えではなく、価値を上げるという選択
世田谷区池尻で、築年数を重ねた木造共同住宅の再生プロジェクトに携わりました。
物件は昭和57年築。
池尻大橋駅からほど近い立地にありながら、
古い木造アパートとして競争力を失い始めていた建物でした。
相談を頂いた当時、建て替えを前提に検討をされており、
他社での新築提案資料を拝見させて頂きました。
内容は、建て替えによって大きく面積が増えるわけでもなく、住戸数も増えない。
建物を新しくすることが、最良の答えになる状況では無いと考え、
既存建物を活かしたフルリノベーションのご提案をさせて頂きました。
当時の建物は4戸構成。
すべて17〜18㎡ほどの和室ワンルームで、設備も古く、
共用部も暗く、街に対して閉じた印象がありました。
都市部にありながら、選ばれる理由が見えにくくなっていたのだと思います。
この計画では、まず建物単体ではなく、周辺エリアの募集状況や住環境を調査しました。
池尻大橋は、渋谷に近く、中目黒や三軒茶屋、代官山にもアクセスしやすい場所です。
都市の利便性と、落ち着いた生活環境が共存する街でもあります。
その中で、小さなワンルームのまま競合と比べられるより、
街に合った住まいへ建物そのものを組み替えるべきだと考えました。
計画では、4戸を2戸へ再編。
戸数を維持するのではなく、住まいとしての魅力を高める方向へ舵を切りました。
1戸ごとに上下階を持つメゾネットタイプとし、小さなワンルームでは得られない、
立体的な暮らし方ができる住戸へ変更しました。
内部はフルスケルトンとし、設備はすべて更新。
耐震補強も行い、古い木造建築をこれから先も使える建物へ整えていきました。
外装は塗装で刷新し、過度につくり込まず、街に自然となじむ佇まいへ整えています。
この計画で意識したのは、働きながら暮らす住まい という考え方でした。
ただ寝るための部屋ではなく、仕事をし、食事をし、趣味を楽しみ、時間を過ごす場所。
都市で活動する人の生活全体を受け止める住まいとして、
この建物を捉え直したいと考えました。
完成後、建物の印象は大きく変わります。
古アパートだった建物は、都市で暮らすための住まいとして、
新しい表情を持つようになりました。
この案件で印象的だったのは、
リノベーションという選択肢そのものを理解してもらう事でした。
当時はまだ、築古アパートを大胆に改修し、
価値を高めるという考え方が幅広く認知されていたとは言い難い時期で、
新築が一番安心、という価値観も今より強かったように思います。
けれど、建て替えだけが答えではありません。
既存建物を活かしながら、延命し、魅力を更新し、次の時代へつないでいく。
Loji apartment は、古いアパートをきれいにした事例ではなく、
建物の見方そのものを変えるプロジェクトだったように思います。








