築古木造を、建て替えずに再生するという選択
築古木造・低賃料・入居者問題を抱えていた駅前物件を、
建て替えではなく再生によって収益化した事例です。
笹塚駅前に、昭和41年築の木造2階建ての建物がありました。
延床約100㎡。駅前という立地にありながら、長い時間の中で老朽化が進み、
この先どうしていくべきか悩みを抱えていた物件です。
建物は古く、傷みも進んでいる。
できることなら建て替えたい。
けれど、入居者がいるため簡単には進められない。
さらに、賃料は周辺相場と比べて大きく低い水準にあり、管理体制にも問題を抱えていました。
本来であればもっと活かせる立地にもかかわらず、建物も収益も停滞していた状態です。
この案件で最初に必要だったのは、設計ではありませんでした。
まずは入居者対応と権利関係の整理。
建物を直す前に、建物を動かせる状態に戻すこと。
既存不動産の再生では、そこが出発点になることがあります。
そのうえで現実的な選択肢として残ったのが、建て替えではなくリノベーションでした。
この場所にはまだ価値がある。
ならば、今ある建物を活かしながら、次の時代に使える建物へ更新する。
そうして再生計画が始まります。
建物調査、耐震診断、補強設計を行い、営業中の区画が残る中で、
空いた部分から順次工事を進めていきました。
壁補強、金物補強、新たな基礎の増設。
古い木造建築を、これから先も使える建物へと整えていきます。
外装は塗装で刷新し、過度につくり込みすぎず、街に自然になじむ表情に整えました。
計画では3区画のテナント構成とし、共用廊下を設けず、長屋形式のシンプルな構成へ変更。
限られた面積の中で、賃貸面積を最大限確保できるよう再編しています。
内装はスケルトン貸しとし、初期投資を抑えつつ、
入居テナントが自由に使える余白を残しました。
駅前立地を活かし、個人オーナーの店や小さな商いが入れる場所を目指しています。
募集にはすぐに反応があり、近隣相場の中でも高い賃料帯で設定しながら、
募集開始後まもなく成約し、新しい担い手が入り、建物は再び動き始めます。
建物がきれいになったこと以上に大きかったのは、
オーナーが安心して将来を考えられる状態になったことだと思います。
街は、大規模開発だけで変わるわけではありません。
こうした小さな更新の積み重ねで、少しずつ表情を変えていきます。
さとてらすは、古い建物を残した事例というだけではありません。
複雑な条件をひとつずつ整理し、
壊すしかないと思われていた建物に、もう一度役割を与えたプロジェクトでした。
建築の仕事は、図面を描くところから始まるとは限りません。
ときには、問題をほどき、可能性を見つけ、
建物が再び使われる状況をつくるところから始まります。
この仕事は、そのことをあらためて教えてくれた案件でした。





