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千丑村に残る風景

2017年、東京都国立市谷保で、

農家レストラン「千丑茶屋」の改修プロジェクトに携わりました。

計画地は、国立市役所のすぐ裏手。
谷保天満宮にも近く、水路や畑、古くからの屋敷林が残るエリアにあります。

都市部に近い場所でありながら、
水や空、農の風景が今も残っている。

谷保には、どこか「足るを知る」のような空気がありました。

千丑という地名には、古くからの歴史が残っています。

甲州街道沿いに形成された村落。
湧水や水路に恵まれ、農業を営んできた土地。
かつては、街道を行き交う人々が立ち寄る茶屋も存在していました。

この計画では、
そうした土地に残る記憶を、現代の営みとしてもう一度開いていくことを考えました。

もともと建物は、農家の本家として使われていた住宅でした。

住まいとしての役割を終え、住居として使われない状態が続いていました。

室内には家財が残り、
庭木も伸び放題となり、
動物が住み着くほど鬱蒼とした状態。

当初は、既存建物を解体し、
鉄骨平屋を建ててテナント貸しを行う計画もありました。

しかし、この場所に残っていた風景や空気感を考えると、
壊して新しくつくるよりも、
既存建物を活かした方が良いのではないかと考えました。

 

ちょうどその頃、この場所で飲食を始める話が動き始めます。

自分たちの畑や、周辺農家の野菜を使ったレストラン。
朝採れの国立野菜を使い、農家自身が営む場所。

それは単なる飲食店というより、
この土地に残っていた農の風景を、
現代のかたちで街に開いていく試みでもありました。

 

建物は、昭和39年築の木造住宅。

用途変更に必要な資料が残っていなかったため、建物を100㎡まで減築し、
住宅から飲食店へ用途変更を行っています。

あわせて耐震補強も実施し、暗く閉じていた庭も整理。

鬱蒼としていた敷地に、
光や風が通り抜ける環境をつくっていきました。

 

建物に残されていたものも、
できるだけ別の役割として使い直しています。

裏庭にあった大きな欅は、
伐採後にピザ皿として加工。

使われなくなった反物はトイレの壁面に転用し、
蔵から出てきた能面やひょっとこの面は、
トイレサインとして再編集しています。

また、古い欄間も玄関上に残し、
この場所に積み重なっていた時間を、

できるだけ空間の中に残していきました。

 

完成後は、農家レストランとして多くの人が訪れ、
全国のJA関係者や地域団体の視察、テレビ取材なども行われました。

地域の野菜や農の風景を、
食を通して体験できる場所として親しまれていたと思います。

 

現在、千丑茶屋は閉店しています。

ただ、この場所で行われていたことは、
単なる飲食店の運営ではなく、

谷保という土地に残っていた風景や営みを、
もう一度街に開いていく試みだったのだと思います。

千丑茶屋は、
この場所に残っていた記憶を、
現代の営みとして更新していくプロジェクトでした。

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